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あのね!

    りんちゃん、あのねっ!

    フランジャーってなあに?
    あら…レコード屋…。

    貴方に質問してくるの久しぶりじゃないの…?

    い、いつ来るのかしら…と思っていたところよ…
    り、りんちゃん…っ!!

    そんなにわたしの質問を待ちわびていてくれたんだっ…。

    わたしすっごく嬉しいよっ!

    わーい!りんちゃん大好きだよっ!
    ふぇっ!?

    ちちちちちょっと貴方、な、何しているのよ!

    かかかかか勘違いしないでくれるかしら!

    け、決して、淋しかったとかそういうものではなくて

    そ、その貴方がリーダーなのにふわふわとしているから

    もっと知識を与えないといけないとか、そう考えたりしてたまでで…
    あれれ?

    りんちゃん、その袋チョコ・ホララのだよねっ!?

    あーーーーーっ!

    バレンタインだからりんちゃん誰かにあげるのかなっ!?誰かなっ!?
    …っつ!

    こ、これは違うわよ!

    そ、その…ち、ち、違うわ…。

    ほら、た、た、たまたま、そこの電柱のそばに落ちていただけであって

    …今から交番に届けようと思っていただけよ…。ほ、本当なのよ…。
    りんちゃん、そんなにお顔ゆでゆでにしなくてもいいよぅ。

    バレンタインなんだからチョコレート持ってるのなんて女の子には普通のことなんだよっ♪
    だから、ち、違うと言っているでしょう…。

    わ、私にはそんな愚昧虚礼な類は、本当にひ、必要ないし

    徹底撤廃すべきだと思っているくらいだわ。

    そ、そんなことよりもあなた質問があったでしょう、デコード屋…。

    そ、そうね、ブランジャーだったわね…。
    ブラジャじゃないよう…。

    フランジャーだよぅ、りんちゃん…。
    えっ?ブ、ブブブブブラララ!?

    ななな、何を言わせているのよっ!

    全く、き、極めて低俗なスイーツね…貴方…。
    違うよっ。りんちゃんが言ったんだよう。

    で、フランジャーってなあに?りんちゃん!
    ……っ。



    フランジャーというのはエフェクターの一種だわ。

    定番中の定番のエフェクターね。

    この音を聴けば 、分かると思うわ。
    ふおおお、これは正しくスイカソーダの音だよっ!

    シュワシュワ炭酸おしゃれだよ、りんちゃん!
    はぁ…炭酸…?まあ、貴方の感覚だとそう聴こえるのね…。

    普通はジェット機の音の様だと言うけれど。ジェットサウンドと呼ばれる事もあるわ。

    私が好きなエフェクターのひとつね。
    ほおぉ。ジェットサウンドかぁ!

    そういえばりんちゃんがバンド練の休憩の時に

    ギターでよくこんな音出しているよねっ。

    ぎゅっいーん!しゅわわわー!じゅじゅごわー!って。

    でも、どうやったらこんな音になるんだろ?ふしぎっ!
    正しく理解するには位相遅延干渉について学ばなければならないけれど

    貴方が物理苦手なのは衆目周知の事実であるから、ここは掻い摘んで説明するわ。

    じゃあ、そうね…レコード屋が歌を歌っているとするわ…。
    はいはいっ!

    一番、山形まり花。心をこめて歌いますっ!!

    カーニバルなら~女の子が~巻き起こすわ~♪
    実際に歌わなくてもいいから…。

    じゃあ、そこへレコード屋がもう1人やってきて

    全く同じ声質、タイミング、音程同時同じ歌を歌ったらどうなるかしら?
    えーっと?

    わたしが2人になって、同じ歌を歌うってことだよね。

    2人分パワーになる感じかなっ??

    ほわわぁ~~みんなに2倍パワーを届けられるよっ!

    スイーツは世界を救うんだよっ!
    はぁ…。貴方ならそう言うと思ったわ。

    でも、残念ながら違うわね…。

    同じ音全く同じタイミングで重ねると干渉を起こして耳障りな音になるの。
    ほえっ!?

    そんなのっ、ひどいよあんまりだよっ!

    みんなに2倍パワー届けられると思ってたのに。
    ところで貴方、以前私のお家で重ねて録った事があったでしょう?

    あの時も歌う場所同じ部分で、さらに同じレコード屋のだったけれど

    良い具合に重なって広がったわよね?
    うんうん!あれってダブリングって言うんだよね?

    ダブで重ねると、ボーカル柔らかく広がる感じになるよねっ。

    でも、その時もわたしが2人だけど全然耳障りじゃなかったよ。

    どうしてだろっ?同じ事なのになんで違うのっ?
    ダブは人間という不完全な生物の特性を利用した手法だからよ。

    人間は機械では無いから何度も正確に全く同じ音程タイミングで歌を歌う事は不可能だわ。

    歌う部分が同じであっても、タイミング音程歌うたびに毎回微妙なズレがあるの。

    その微妙なズレがあの広がりを出しているのよ。

    つまり、ダブは全く同じ音を重ねているわけではないの。

    この特性はコーラスというエフェクターでも再現しているわ。
    コーラスかぁ!わたし、そのエフェクターならよく使ってるかも。

    エレピとかにかけると、どどーんって広がっていい感じになるよね。

    そっかぁ、全く同じ音だとだめだけれど

    タイミングとか音程微妙に違う音を重ねると広がったり良い感じになるんだねっ!
    そうよ。

    フランジャーもそういう仕組みなの。

    元の音違う音重ねているからあの様な音になるのよ…。

    だから仕組みはコーラスと同じと言っていいわ。

    ただ、違うのはその微妙さの加減ね。

    コーラスタイミング音程結構変えたものを重ねているけれど

    フランジャーほんの少しという微妙なズレで重ねているわ。
    ほぉおおおお!

    ほんの少しだとスイカソーダみたいにしゅわわわってなって

    もっとズレるどどーんってほわわわーって広がるんだね。

    音ってホントに不思議っ!
    そう。この世の全ての音というものは…そういった重なり合いを経て生まれているの。

    全ての音の根源的存在は正弦波という単純な波形なのよ。

    複雑で美しいオーケストラの響きも、衆愚の発する激しい雑音

    何でも何度も分離していくと行き着く先は全て同じだわ…。

    つまりこれは、形而上学的に言うと…
    えへへ☆りーんちゃん!

    じゃーん!!

    ほら、チョコレートだよっ!

    わたしね、りんちゃんの為に手作りで作ったんだよ!
    …えっ?



    だだだだから!

    私はそんな大衆迎合したきょ、虚礼的なものは必要ないと先程言った筈よ…。



    もらってくれるかなっ…?




    な、ななななななななななななななななな!?


    大丈夫だよ!絶対、大丈夫だよっ!


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